イタリア政府が10月27日に閣議決定した2019~2021年の経済財政計画を受け、イタリア国債利回りは急上昇、株価は急落と市場が荒れています。
2019~2021年の3年間の財政赤字をGDP比2.4%としたことが原因ですが、今後議会とEUの承認を経て12月までの成立を目指すようです。
これ受けて、6月の連立政権発足以降再び金利上昇、株価下落が加速しています。
10年国債利回り:イタリア(緑)、スペイン(赤)、フランス(青)、ドイツ(黒)
2年国債利回り:イタリア(緑)、スペイン(赤)、フランス(青)、ドイツ(黒)
欧州全体の株価はほとんど反応していませんが、イタリア市場は大きく下げています。
欧州株価指数Stoxx600(橙)、イタリア株価指数FTSE MIB(緑)、イタリア最大手銀行UniCredit(赤)
今回の件を理解するには、そもそもイタリア政府は反EU政権であるということを知っておかねばなりません。
イタリアはEU発足時のマーストリヒト条約を締結した1991年には欧州の中でもかなり親EUだったようですが、今では反EUの代表になっています。イタリアがそうなってしまったのは共通通貨ユーロを使うことによる経済の悪化(ドイツの一人勝ち)、EUの政策による難民流入問題(難民は主にドイツが呼び込んだ)などが背景です。
現在の政権が発足するまでには紆余曲折ありました。3月の総選挙でどこの政党も過半数に届かなかったのですが、その後連立協議が上手くまとまらず、6月の政権発足まで3か月の政治空白ができました。
総選挙後、反EUで共通する「五つ星運動」「同盟」が連立することで協議していたのですが、この2党がユーロ離脱派の人物を経済相に起用しようとしたところ大統領が拒否したため、2党は再選挙、大統領の弾劾を求めるなど激しく大統領と対立したのち、結局ユーロ残留派を起用することでようやく発足させた政権なのです。
それにしても民主的に選ばれた連立政権が指名した人事を大統領が拒否するとは、自国民の意思よりも既得権益が大事なようですね。
こういった背景から、イタリアの政権がEUと衝突することは前から分かっていたことであり、エスカレートすればEU離脱もあり得るのではないかとマーケットは考えているのです。
今回イタリア政府が示した財政赤字GDP比2.4%という数字には、連立政権の目玉政策である貧困層向けのベーシックインカムや減税などの政策が含まれています。仮にEUから修正を求められても大幅に削減はできないでしょう。
EUは各加盟国に対して財政均衡であることを求めており、財政赤字がGDP対比3%を超えないか、債務残高はGDP比60%以下に収まるか、などを確認し、抵触している場合は予算で是正措置が取られているか判定し、是正措置が取られない場合、制裁(GDP比0.5%までの罰金)を科す仕組みになっています。
イタリア予算の財政赤字GDP比2.4%はEUの掲げる3%を下回っていますが、イタリアの債務残高はすでにGDP比130%を超えており、EUルールでは緊縮に向かわなければならないわけです。しかし、今回の予算は財政を健全化する気は全くないですよとEUに宣言したと言えるのです。
これを受けてモスコビシ欧州委員(経済・財務・税制担当)は「EUの存続そのものを脅かす危険な政治危機だ」と発言しています。
イタリア政府はユーロ懐疑派で外国嫌いーモスコビシ欧州委員 – Bloomberg
そしてもう一つ問題なのはイタリアの格付けです。
イタリア国債の格付けはS&PがBBB(ステーブル)、Moody’sがBaa2(BBBに相当)(ネガティブ)、FitchがBBB(ネガティブ)となっています。
BBBというのは投資適格級とみなされる最低ラインでBB(Moody’sはBa)に下がると投機扱いになります。
世の中の機関投資家、年金、投信などが投資するほとんどのファンドのガイドラインでは、投資対象の格付けを投資適格級(BBB)以上としており、イタリアは2ノッチ引き下げられるだけでこの投資対象から外れてしまいます。もしそうなれば、イタリア国債は投げ売りされて暴落する可能性があるのです。
このように、イタリアの財政赤字拡大、EUとの衝突を背景に、格付けの引き下げやEU離脱などにより危機が生じるのではないかと心配されてるわけです。
ちなみに、イタリアで5月末におよそ1000人を対象に実施された世論調査では、国民投票が実施された場合29%がユーロ離脱に投票し、EUを信頼するとの回答は40%未満だったそうです。
イタリア:国民の29%がユーロ離脱に投票へ-世論調査 – Bloomberg