株価の急落があったため一部でFRBが利上げペースを緩めるのではないか?と期待している人もいるようですが、そんなことでFRBが利上げペースを緩めることを期待してはいけません。
なぜならFRBの仕事は安定したインフレ率と低い失業率を維持することであり、資本家を助けることではないからです。
むしろリーマンショックを経たのち、投資家が暗黙の政府保証を求めるモラルハザードについては厳しい目を持っている人が増えているのではないでしょうか。
連邦準備法ではFBRのデュアルマンデート(二つの使命)は、最大限の雇用(maximum employment)と物価の安定(stable prices)と定められています。
最大限の雇用とは失業率4.5%のことです。
FRBは失業率4.5%が完全雇用だと考えており、この水準であれば労働者は基本的に職についており、失業者は自発的に辞職して自分にあった職を探しているか、そもそも雇用が不可能な人たちです。
物価の安定とはインフレ率2%のことです。
FRBは2%のインフレ率がデュアルマンデート(最大限の雇用と物価の安定)の達成に資すると考えています。
なぜ2%かという明確な答えはないですが、高すぎるインフレ率は公共の長期的な経済や金融に関する判断力を低下させ、逆に低いインフレはデフレとなる確率を高め、物価や賃金を低下させ景気を悪化させる懸念があるため、心地よい水準として2%としています。
インフレ率の測定には家計支出を幅広くカバーしている個人消費支出(PCE)価格指数を主に使っていますが、消費者物価指数(CPI)や生産者物価指数(PPI)など幅広く見ています。
指数によってカバーしているモノ・サービスが異なったり、計算方法が違うためです。
また、長期的なトレンドを把握するためにコア指数(食品、エネルギー除く)や、指数の内訳までチェックしています。
多くのニュースやブログでFRBがPCEのコア価格指数を政策目標にしているような書きぶりがありますがおそらく間違いで、重視はしているものの、最終的には食品、エネルギーを含んだPCE価格指数が2%で安定することを目指しています。(https://www.federalreserve.gov/faqs/economy_14419.htm)
それで、今の環境はどうかというと下のグラフの様になっています。
FF金利(青)、PCE価格指数(黄色)、失業率(茶)
赤線は目標の水準です。
このグラフから読み取れることはインフレ率(黄色)は目標並みですが、失業率(茶)は目標の4.5%を大きく下回る3.7%であり、目標まで0.8%悪化しても良いバッファを持っているということです。
また、インフレ率が上がってくればこのバッファはさらに大きくなります。
つまり、このバッファがある間はFRBは利上げの継続を正当化できる、むしろ、長期持続的な経済成長のためには引き締めなければならないと判断している可能性があるのです。
金融政策の効果が出てくるのは利上げから1,2年後とも言われており、既に引き締め過ぎじゃないかとの意見も多く見られますが、それをFRBが判断することは出来ません。
パウエル議長はFF金利が中立金利(景気を過熱も冷やしもしない水準の金利)を超える可能性も示唆しています。
パウエルFRB議長、中立金利水準を超えて利上げを進める可能性ある – Bloomberg
FRBの金利予想を示すドットプロットでは長期の金利水準予想を3%としているため、上記ニュースでは3%が中立金利と書かれていますが、FRBは長期の実質GDP成長率(潜在成長率)を1.8%とも予想しており、こちらを使うと潜在成長率1.8%に期待インフレ率2%を足して3.8%が中立金利となります。
どちらを指しているのかはニュースから分かりませんが、いずれにせよFF金利は引き上げられていくのかと思います。
出所:Bloomberg
潜在成長率は推定は出来ますが正解は誰にもわからないということが問題であり、FRBも引き締め過ぎかどうか分からずに手探りで利上げを続けているのでしょう。
そして何か問題が起きたら方針転換する、言い換えれば問題が起きるまで利上げは続き、必ず問題が起こるということです。