アーティスティック・インベストメント・ストラテジー

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関税が問題にならないのは強いドルが吸収してくれるから

米中が関税を掛け合っているにも関わらず、なぜ米国株がすぐに下落で反応しないのか不思議に思っている方も多いのではないでしょうか。

私が観察するに、米国の関税は為替で吸収され、調達側にはほとんど影響を与えません。

例えばトランプ大統領が当選した2016年11月9日頃、メキシコに関税がかけられることによりメキシコからの調達コストが上昇すると考えられていました。しかし、ふたを開けてみるとメキシコペソ(左軸)が10%以上急落し、コスト上昇が懸念されていたGMやFord、フィアットクライスラーなどの自動車株はほとんど影響を受けませんでした。SP500の自動車セクター(SP500_2510)も上昇しています。

ちなみに、米国で売られる自動車部品のうち、労働集約的なものはほとんどメキシコで作られています。

 

また、人民元も直近の高値から10%下落していますが、これは米国から見れば中国製品が10%安くなっているということです。

例えば中国からの輸入品の半分に関税が20%掛けられ、為替によって輸入品全体が10%安くなるとすると、全体のコスト上昇は0%とトントンになります。

このように、米国から関税をかけられた国の通貨は減価し、関税によるコスト上昇分を吸収するため、その国から原材料等を調達する企業の調達価格に影響を与えないのです。

ですから米国内で輸入品の販売価格を上げる必要はなく、よって輸入量が減るわけでもありません。

このドル高の動きは米国の交易条件を改善させる一方、相手国は交易条件が悪化し、資産価値がドルベースで減価します。米国企業としては相手国から調達する分には問題ありませんが、相手国内で売上をあげていたり、資産を保有しているとその価値はドルベースで減価します。

 

これは、言ってみれば米国による相手国の奴隷化です。

米国は高くなった米ドルのおかげで相手国の生産したものをより消費するようになり、相手国は安くなった通貨のおかげで生産活動が刺激されます。
 
主人である米国はより安い価格で相手国の物を買い取ることができ、利益も関税で一部没収します。一方奴隷国は生産した物を安い価格で売らされ、利益の一部は関税で没収されることになります。さらに、奴隷国は得られた黒字をどこかに投資するわけですが、主にネット赤字部門でないと債券を発行しないので、最終的に赤字消費活動をしている米国の国債を買わざるをえません。
結局、米国は国債発行によって奴隷国から調達した資金で奴隷国が生産した物を買うという循環ができ、奴隷国にしてみればまさにタダ働き、米国は消費し続け、奴隷国は生産し続ける構図なわけです。
 
 
もちろん奴隷国が貿易黒字で買った米国債は資産に計上されますが、これは紙切れなので購入時と同じ価値では返って来ないと考えた方が良いでしょう。 

1971年のニクソンショックでは、米ドル紙幣と金の兌換(1オンス35ドル)が停止され、変動相場制へと移行しました。それまで米ドルは金と同等の意味を持っていましたが、金と交換できなくなったことでただの紙切れになったわけです。
当時は35ドルあれば1オンスの金が手に入りましたが、現在では1200ドル必要です。ニクソンショックは実質的なデフォルトと言ってよいでしょう。
ちなみにこちらの記事(A Brief History of U.S. Defaults - The Globalist)によれば、テクニカルなものも含めて米国は過去5回デフォルトしています(記事中の1790年、1861年、1933年、1979年に加えて、1971年ニクソンショック)。
 
また、米国には国際緊急経済権限法(IEEPA)という法律があり、安全保障上の脅威などが生じた場合、外国が保有する米国資産を無効化できる法律があります。いざとなれば借金をチャラにできるということです。
 
まとめると、現在の関税引き上げ、大きな経常赤字、ドル高は、まさに米国覇権の体現であり、中国を奴隷化することへの試みと、それに対する中国の挑戦なのです。
 
ジョージソロス著の『ソロスの錬金術』にこんな記述があります。
レーガン大統領の自信たっぷりな態度が、外国から資金を吸い寄せた。ドルは強くなり、その強さと金利差があいまって、ドル需要の増加は抑制がきかなくなった。ドル高は輸入を拡大し、それが旺盛な需要を満たして、物価水準を押し下げた。こうなると自己強化プロセスがスタートする。強い経済、強いドル、巨額の財政赤字、巨額の貿易赤字、これらがお互いに強化しあい、インフレなき成長を実現した。この循環的な関係をレーガン帝国主義的循環と呼ぶことにしよう。
 
今の米国はさながらトランプの帝国主義的循環でしょうか?
 
ソロスの理論は、自己強化プロセスによってバブルが生じ、それが維持できなくなり、逆回転を始めることで崩壊する、というものであることは皆さんご存知かもしれません。
 
ソロスの錬金術にはこの後、『やがて債務の返済が増加し、帝国主義的循環の土台になっている関係が崩れる。』『財政赤字に見合うように国内の貯蓄を増やすためには、金利を引き上げる必要がある。貯蓄が増加すれば消費が減少し、経済は停滞する。その結果、外国人はドル資産を保有する意欲を喪失するだろう。この変化は、弱い経済と膨大な財政赤字が結びついて金利上昇とドルの下落をもたらす、という「崩壊のシナリオ」をスタートさせる可能性がある。』と述べられています。
 
 
ちなみにこれは貿易戦争ではなく覇権をかけた100年戦争であり、すぐに勝負はつきません。
そして両者が消耗するなか着々と力をつけた第3の新興国(インド)が次の覇権を取るのではないでしょうか。