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Skechers(SKX US)の銘柄分析

今回はSkechers(SKX US)の銘柄分析をしてみます。
売上や収益性、キャピタルアロケーション、バリュエーション、マーケットの織り込みなどを見てみましょう。
投資には色々なパターンがあるかと思いますが、今回のケースは、長期で見ると良い銘柄だが、足元何かしらの要因でボロ株に見えている銘柄に投資する、です。
バフェットみたいな投資パターンですね、クオリティはバフェットのお眼鏡には叶わないと思いますが。
結論から言うとスケッチャーズは買いと考えます(2018年9月21日株価$26.0~$27.0)。
 
スケッチャーズは皆さんご存知ですね。
ナイキ、アディダスに次ぐ靴ブランドです。ブランド力、規模は違えどビジネスモデルはほぼナイキ、アディダスと同じと考えて良いでしょう。
同じビジネスモデルの比較対象がある場合、銘柄分析はとてもやりやすいです。
特にバリュエーションを計るのが楽ですね。
そもそもスケッチャーズに目を付けたのはナイキ、アディダスに比べてあまりにもバリュエーションが低いからです。
その割に売り上げはしっかり伸び続けており、環境としてもアスレジャー市場は好調で、時価総額が大きすぎないところも良かったですね。
下で色々書いてますが、結局は将来の予想を立てるのと、マーケットとの認識の違いを整理するためにやっています。
投資をする時に上記をはっきりさせておくことで、後日自分の投資判断の何が良かったか、何が間違っていたかの答え合わせがしやすくなるのです。
数字はMacrotrendsから取っていますが、コピペする時に小数点以下が四捨五入された数値しか取れないので多少の数字の誤差があります。
 
銘柄概要
スケッチャーズは世界170ヵ国に展開するグローバル靴ブランドです。
創業者でCEOでもあるロバート・グリーンバーグだけで議決権の6割超を握っているオーナー企業です。
主な売り上げチャネルは、国内ホールセール、海外ホールセール、国内外リテールの3つです(それぞれEコマース含む)。ホールセールはデパート、専門小売店、オンライン事業者などで構成され、スケッチャーズの代わりに靴を売ってくれます。また、スケッチャーズ自身もグローバルにリテール店舗を所有しており、国内、海外で靴を直接顧客に販売しています。卸売りか直販のどちらかで消費者に靴を届けるということですね。
また、自社では製造工場を持たず、およそ6割を中国、残りはベトナム等の現地生産者に委託製造しています。
 
売店舗はスケッチャーズ自身が所有しているものとJV(ジョイントベンチャー)とで所有しているもの、先ほどのホールセールが所有する店舗やフランチャイズ、ライセンスを付与した事業者などの他社が保有している3つに分類されます。

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2015年から他社所有の店舗が急増しており、合計店舗は2013年から2017年の4年間で3倍になっています。
 
こちらは2018年のブランド別のマーケットシェア(売上)です。
ナイキとアディダスが圧倒的で、他はお団子状態ですね。スケッチャーズにとってはまだまだ伸びる余地があると言えます。
 
売上成長
下は売上グラフです。堅調に伸びていますが、特に2014年からの伸びは加速しています。店舗増の影響かと思います。

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売上成長率を見ると2005年から2017年までで年率12.6%伸びていますが、2013年以降は年率20%超に加速し、足元は落ち着きましたがそれでも15%で伸びています。f:id:shurrin:20180919232303p:plain
ちなみにナイキの2005年から2017年の売上成長率は年率7.9%、アディダスは年率10.2%です。Annual Reportから単純に取ってきただけの数字で買収などを考慮してませんが、スケッチャーズが一番伸びているとは意外です。やはりマーケットシェアが高いとそこから伸びるのは大変なんですね。
 
この売上成長は店舗数の拡大だけではなく、既存店売上(Same Store Sales)でのオーガニックな成長も寄与しています。

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既存店売上成長はピークからは低下していますが、一般的に一桁半ばもいけば立派なものなので十分な水準かと思います。特に海外の伸びは高いですね。既存店売上がしっかりしていることは需要が堅調に伸びていることを示唆しています。ナイキと比べてみましたが、2017年はスケッチャーズのSSSの方が上回っており、遜色ないと思います。
 
 
収益性

粗利益率は2012年以降着実に改善しています。

販売チャネル別の粗利益率は2017年時点でリテール(58%)>海外ホールセール(45%)>国内ホールセール(37%)なのですが、リテールと海外ホールセールの売り上げが大きく伸びているのでMixが改善しているのが理由です。

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 一方販売管理費率は2011年以降一貫して改善傾向だったのですが、2016年から悪化し始め、足元の2018Q2で急速に悪化しました。これは将来に向けた成長投資のほか、よくわからない訴訟の和解費用$6.2milを計上したことが原因です。これによって大きな逆営業レバレッジが掛かり、利益を圧迫しました。
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粗利の改善を上回って販管費が増加したため、上記の営業利益率は2018Q1の11.9%から直近の2018Q2決算では7.2%と急激に悪化し、営業利益は▲5.7%成長となりました。ちなみにこれを受けて株価は30%近く急落しました。
 また、法人税率も2018Q1で9.6%だったのが2018Q2で18.8%だったことで純利益率も急落しています。

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 EPS成長率は2005年から2017年までで年率10.3%と売上成長年率12.6%より低くなっており、逆営業レバレッジが掛かってしまっています。これは2017年の利益減少が理由なので、2016年までで計算すると売上成長年率12.2%に対し、EPS成長年率14.6%となります。

ちなみにナイキの2005年から2017年のEPS成長率は年率13.3%、アディダスは10.8%しか伸びていません。

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次はROEです。
長期で投資するのであればバフェットの様にROEを見なければなりません。ROEは企業が内部留保を事業に再投資する際に期待できるリターンを表しています。簡単に言うとROE×内部留保の割合=EPS成長率となります。
 
下図はROAROEの推移です。2013年以降の売り上げ拡大や、販売チャネルのMix改善によってROEは2015年に19%になりました。構造的に利益率が改善してきているのですね。直近は販売管理費の上昇による利益減少で足元ROE12%となっていますが、ポテンシャルとしては10%後半あると思います。市場全体の平均が14%程度なのでまあ合格ラインでしょう。

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ちなみにナイキはヒストリカルに見ればROE20~30%、アディダスはROA9.8%、ROE24.8%(過去12か月 Yahoo Financeより)です。意外と高収益な業界なんですね。スケッチャーズも販管費を除いては構造的に高収益(規模の拡大、粗利改善)になっていると私は考えてますので、長期で見たROEは2015年の様に10%後半を目指せると考えています。
 
キャピタルアロケーション
スケッチャーズの成長戦略を見てみましょう。
グラフは事業から得たキャッシュフローを左に、そのキャッシュを何に使ったかを右に並べたものです。
事業から得たCF(左):純利益、減価償却費・無形固定資産などのアモチゼーション(償却)、借り入れ等
アロケーション(右):運転資金(売掛金、在庫増加などBSの拡大)、CAPEX等(Capital Expenditure設備投資)、JVへの配当または出資受入、自社株買いまたは増資、余ったNCF(Net Cash Flow)

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まずぱっと見た印象は、CFに対してアロケーションの比率は年によってばらばらでわかりづらいですね。もっと大企業で利益が安定していて、戦略もしっかりしている会社ではアロケーションの比率が分かりやすいのですが。
上記グラフからいくつかの情報を読み取りましょう。
・配当は1円も出していない=全額内部留保、事業へ再投資している。
・少しずつ増資しており(赤)、株主還元は全く行っていない。増資は従業員の持ち株会のもよう。
減価償却(薄紫)を超えるCAPEX(濃い紫)、運転資金(緑)の拡大をしており、事業を拡大している。足りない部分は純利益(オレンジ)から出し、余った時キャッシュ(黄色)はため込んでいる。
・最近JVへ配当(黒)を出している。
・財務は健全で借金(青)もほとんど増やしていない
 
まとめると、とにかく事業に全額再投資、いくら再投資できるかはわからん、余ったらキャッシュで内部留保、という感じですね。
2005年から2013年までNCF(黄)がプラスマイナスを繰り返しています。つまり、毎年一定の比率でアロケーションをするというよりも、キャッシュが貯まったら使う、翌年また貯まったら使う、を繰り返すスタンスに感じます。
しかし2013年以降キャッシュが恒常的に貯まるようになり、2018年2月から自社株買いプログラムを実行予定で、2021年2月までの3年間で$150milの自社株買いを予定しています。ついに株主還元を始めたわけですね。これまで従業員の株式数増加によりEPSが薄まっていたのが、株式数の減少とEPSの拡大に転じる事になります。1年$50milと考えると、スケッチャーズの時価総額が$4bilくらいなので1%はEPSを伸ばすことが出来ますね。
これまで全く株主還元がなかったので、かなりポジティブに感じています。配当ではなく全額自社株買いというのがまた良いですね。
私のように配当を貰ったところで全額再投資する人からすると、配当は税金が取られるだけ全くの無駄なんです。ジェレミーシーゲル好きの方は配当がリターンを向上させると思っていますが、そういうロジックは存在しません。利益の使い道は、高いROEで事業再投資>自社株買い>配当、の順で投資家のリターンを向上させます。ですから私は事業に再投資するか、自社株買い推奨派です。
 
バリュエーション 
Yahoo Financeを見ると、スケッチャーズのForward PEは13.3倍です。
これは2019年の予想EPS$2.01からおおよそ(10%-1/13.3)=2.5%の長期成長率が織り込まれている計算です。割引率を10%ではなく11%と考えても3.5%の成長しか織り込まれてません。
上記の意味が分からない方は、下記の記事を参照してください。

 一方、競合のバリュエーションは下記のとおりです。
ナイキ(NKE US):Forward PE27.2、EPS成長率=10%-1/27.2=6.3%
アディダス(ADS DE):Forward PE26.5、EPS成長率=10%-1/26.5=6.2%
アンダーアーマー(UA US):Forward PE53.1、EPS成長率=10%-1/53.1=8.1%
ルルレモン(LULU US):Forward PE37.0、EPS成長率=10%-1/37=7.3%
競合に対してSKXのEPS成長率は半分以下だとマーケットは考えていることになります。
ちなみに2019年のEPS予想$2.01がおかしくないか念のため確認すると、2017年末の株式数156.5milをかけて純利益$313mil、これを売り上げ予想の$5.18bilで割って純利益率6%くらいなので、減税もありますしそこまでおかしくはないかなという感じです。
 
株価
スケッチャーズの株価は長期で見てもナイキやアディダスと遜色ありません。むしろ最近の下落要因が一時的なものであればアウトパフォームしています。

 

 スケッチャーズの株価の動きをおさらいしておきましょう。

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丸一つ目の2015Q3に30%くらい急落していますが、これは30%超で成長していた国内ホールセールが減速したためです。さらにスケッチャーズは成長への投資を加速させたために利益が圧迫され、株価は低迷していました。しかし丸二つ目の2017Q3では粗利の改善などもあり営業レバレッジがプラス転換する兆候が見え(本当は販管費が下がらないといけないのですが)、また税率が低くてEPSが予想を大きく超えたため決算発表後寄り付きで株価は40%も跳ね、さらに株価は40ドル超まで上げました。ところが、丸三つ目の2018Q1で経営陣が再び成長投資への費用が利益を圧迫するとの見通しを発表した結果、株価は低迷しているのです。。
それでもこの間、売上、粗利とも堅調に上がっています。
 
マーケットの認識と何が違うか?
色々と数字を見てみましたが、売上は10%半ば、既存店売上も堅調、粗利率も改善と、結局問題があるのは急増した販売管理費のみです。
ではこの販売管理費の増加は何かというと、ほとんどが先行投資です。 
 
2018Q2の決算で確認してみましょう。
販売管理費は$405.2milから$485.0milに前年比20%も増加しています。しかしこの増加した$80milのうち、$30milが中国への投資で特にEコマース関連に集中、$12milがスケッチャーズ所有のリテール店舗拡大、$6milが一時の訴訟和解費用です。これらを費用から除くと税引き前利益を60%以上押し上げます。
私はこれらの費用を投資と考えており、費用と認識することは正しくないと考えます。
アマゾンが研究開発費によって利益が減少した時、売りだ!と考える人がいるでしょうか?
アマゾンの研究開発費は販売管理費として全額費用計上されますが、これは将来に利益を生み出す投資というコンセンサスが出来ており、そこでネガティブな評価をするアナリストはいないと思います。本来はCAPEXとして資産計上すべきと思うのですが、会計基準が追い付いていないのです。ですから全額費用計上して利益を圧縮し、税金も少なくて済む。そして今のアマゾンの様に投資フェーズから安定フェーズになると急激に利益が上昇しだすのです。
私はスケッチャーズの販管費もそういった認識の仕方にすべきと思うのです。
 
ポイント
・過去の数字を見る限り、売上、既存店売上、EPS成長ともにナイキ、アディダスの成長率となんら遜色ない、むしろ上回る部分もある。
・にもかかわらず、長期EPS成長率は競合の半分以下の2.5%程度で評価されている。
・低評価の理由は販管費の急増、しかし中身は先行投資。
・自社株買いによる株主還元を始め、事業再投資への勢いは減速、回収フェーズに移行中と考えられる。
・2017Q3で営業レバレッジがプラスになる兆候が見えたとき、株価は1日で40%上昇した。マーケットは正のレバレッジを求めている。
・経営陣は2018Q4以降に営業レバレッジが正に戻ってくると言っている(とは言えあと2年くらいは色々と先行投資が必要)。
 
以上から、プラスの営業レバレッジに転換するのは1年以内程度と近く、バリュエーションの大幅改善が見込まれるほか、売り上げ、粗利の改善が堅調なことから、営業レバレッジがかかるとEPSも大きく伸びるので、魅力的と考えています。
そもそもナイキ、アディダスなどと比べて特別なビジネスモデルでも何でもないわけですから、売上が伸び続けているのに利益が下がり続けることなど不可能です。販管費の先行投資についても、所詮は靴屋なので全額費用と認識するほど意味不明な投資にはなりえないでしょう。
 
ちなみにアンダーアーマーはテクノロジーだのなんだのへの期待によって信じられないForward PER(50倍超)を謳歌していましたが、消費者から見れば所詮はスポーツアパレルの一つなので、結局常識を外れた成長はできず株価は半値以下になっています。同じく高すぎるPERと同様に低すぎるPERもまた正当化し続けるのは無理ではないかと思います。ボラの高さによるディスカウントは常にあるでしょうが、それはむしろ自社株買いによる長期的なリターンを押し上げてくれるでしょう。
 
長期で見れば売上、利益とも堅調に伸びている銘柄で、足元の一時的要因によって株価が下落している。しかもその要因は成長への投資であるにも関わらず、マーケットは費用としてネガティブに捉えており、ボロ株の扱いを受けている。
まさにバフェットが好むようなシチュエーションではないでしょうか。クオリティはバフェットが好む銘柄には及びませんが。
長い目で見ればファンダメンタルは良好だが、買う瞬間にはボロ株に見えるというのがポイントですね。
 
そういうわけで私のスケッチャーズの判断は買いです(2018年9月21日株価$26.0~$27.0)。
ブログで紹介した銘柄は定期的にレビューしていきたいと思います。