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「ドコモの値下げ発表で通信株が大暴落」という出来事を持続不可能なシステムが崩壊したという観点で見る

ドコモが決算発表会で通信料金の大幅値下げを発表したため、通信会社の株が軒並み暴落しました。

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出所:株式会社NTTドコモ 2018年度第2四半期決算資料

 

利用者への還元額は年間最大4000億円で、ドコモの携帯電話利用者数6600万人で割ると1人あたり年間6000円くらいになります。

この発表によって業界全体の値下げ競争が激化するとの見方が広がり、大手通信会社の株価は軒並み暴落しました。

【9432 日本電信電話(NTT)】▲14.74%
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【9437 NTTドコモ】▲14.71%
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【9433 KDDI】▲16.15%
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【9984 ソフトバンクグループ】▲8.16%
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この出来事について、以前より菅義偉官房長官が日本の携帯料金は高すぎる、4割値下げしろ、と言っていたので、ドコモはその圧力に屈したというのが一般的な理解かと思います。

しかし私はもう少し構造的な観点から、”持続不可能なシステムが崩壊した”という感触を受けました。

というのも、日本の通信セクターというのは世界的に見てかなり特殊なのです。

 

それは、周波数がオークションではなく、総務省の裁量によって通信会社に割り当てられるという事です。

通信会社というのはそれぞれがある周波数帯を独占的に使用して通信サービスを提供している訳ですが、日本以外の国では普通、その周波数帯をオークションによって落札しなければなりません。

平成25年の少し古いレポートですが、野村総合研究所の「我が国における周波数の価値の算定」によると、"OECD加盟30カ国でオークションを実施する計画さえ無い国は、日本だけとなっている。"、"また、東アジアにおいては、韓国、台湾、香港は、周波数オークションを行った実績があるため、未だ行っていないのは、中国(本土)、北朝鮮、モンゴルと日本となっている。シンガポール、タイ、インド、コロンビア、など、OECD 加盟国以外でも、多くの国で周波数オークションが行われており、周波数オークション制度自体は世界的に一般化している。"

 

なんと、周波数オークションを行ったことがない国は日本以外に、中国、北朝鮮、モンゴル、だけ!

どれだけ珍しいことなのかお分かりいただけるかと思います。

 

一度落札してしまえば独占的に事業が行えるわけですから、周波数と言うのは非常に貴重な資産であり、その落札価格はしばしば高騰します。

通信会社も色々と資金調達を画策するのですが、落札価格が高騰するほどその返済負担が厳しくなり、株主が落札価格がペイしないほど高すぎると見なせば周波数を手に入れても株価が暴落することもあります。

しかし、落札できなければビジネス自体が出来ないわけですから、通信会社は限界まで高い価格で入札するのです。

 

実際に2015年にタイで行われた周波数オークションでは、通信会社が高い金額でビットを掛け合う度に入札に参加している通信会社の株価は暴落し、落札した1社であるジャスミン・インターナショナルに至っては落札価格の資金調達が出来ず、オークションをやり直す羽目になりました。

・タイで電波価格高騰、携帯各社の株価下落 そろって年初来安値 :日本経済新聞
・4G周波数帯の入札をやり直し、ジャスミン巨額融資得られず (2016年3月21日) - エキサイトニュース

ちなみに、落札出来なかった会社も、落札出来なかったということで株価が下落しています笑

 

つまり、落札しても地獄、落札出来なくても地獄というわけです。

しかし、裏を返せば国が公共の資産である電波の価値を最大限に引き出したとも言えますし、民間の通信会社は電波を高い金額で落札した分を取り返そうと、その分最大限活用するインセンティブにもなるわけです。

 

では、日本はどういう仕組みかというと、総務省の裁量で各社に周波数を割り当て、割り当てられた会社は電波利用料を支払う、という形になっています。

つまり、海外の通信会社が周波数に対して大金を負担しているのに対し、日本の大手通信会社は新規参入の不安もなく寡占事業を行うことができ、落札費用はゼロなのです。

 

ちなみにソフトバンク孫正義社長はこのやり方について、国民の資産である電波を総務省の人間が密室で、数名で決めるプロセスはおかしい、あまりにも不公平、天下りとの癒着行政だ、とぶち切れていたことがあります。

よくある総務省の利権という事ですね。

孫正義氏は周波数オークションに反対のようなので、さすがにこれはポジショントークだと思います。

それでも総務省に割り当てられないと周波数が使えないということは、総務省は権力を持っており、周波数を割り当てられている通信会社は政府の権力が及ぶ範囲内に置かれているという訳です。

 

このような関係は、利権を持ちたい総務省と、競争や費用が少なくて済む通信会社にとっては良いものですが、それで大金を儲けている訳ですから一般の人からすれば不平等と感じるのは当然です。  

そして私から言わせればこのような不平等なシステムは攻撃の対象にされ易く、持続不可能なシステムなのです。

 

もし周波数をオークションで落札していれば政府から何を言われる筋合いも無かったでしょう。

しかし、政府から周波数を割り当てて貰っているがために、通信会社は政府の権力の及ぶ範囲内に置かれ、都合の良いタイミングで攻撃されたのです。

つまり通信会社は、周波数オークションにビッドせずに済んだ分の代償を、今支払っているのです。

それにしても、周波数オークションの導入ではなく、値下げという形ですから、持続不可能なシステムに対してはどこから攻撃が来るかわかりませんね。

 

ちなみに総務省の電波利用ホームページによると、電波利用料平成28年度で年間800億円程度しかなく(日本の全社合計と考えると安いですよね)、テレビ局の負担は通信会社の10分の1程度らしいです。

つまりテレビ局は数十億程度のわずかな電波利用料で独占的に電波を使用し、数千億円を売り上げており、電波料の内訳としては個人から料金を取れる通信会社により負担を寄せているということですが、少し話が変わってきたのでこれ以上書くのはやめておきます。

しかし、これに不満を言うのではなく、株主にとって有利だと考えることが資本家マインドとしては正しいのでしょう。

いずれにせよ皆さんに伝えたかったのは、システムに欠陥があるといつか攻撃されるので注意が必要という事です。

 

ちなみに持続不可能なシステムという事で言えば、経済力の異なる多くの国が共通通貨ユーロで一括りにされている状況や、双子の赤字を垂れ流しながら強さを保っている米ドルでしょう。

・米国の財政赤字が前年比17%の増加、米ドル大暴落の投資テーマとは

・関税が問題にならないのは強いドルが吸収してくれるから

ルールが変わる瞬間にはご注意下さい。